豊胸手術について
最近アクアフィリングという注入物での豊胸によるトラブルで苦しんでいる方がたくさん当院を受診されています。この物質が出てきた時に日本美容外科学会(JSAPS)の理事会で、これはあきらかに危険なものなので、早期に学会会員に使用しないように注意喚起をしたほうがいいという意見が多数ありました。まず厚生労働省に対して、対策をお願いしましたが、本来のこの物質は、日本政府が認可してものではない、輸入手続きの書類が国に提出されたこともない、したがって、そのようなものが国内にあるはずがないという回答でした。つまり国内には密輸のような形で入ってきたもので、そういう業者がいたということです。このようないきさつがあり、対策がかなり遅れたのは事実です。その結果日本美容外科学会会員でこの方法による豊胸手術をされた医師はいないはずですが、世間にはなんの技術も不要で、単純にこの物質をバストにめがけて注射で入れればそれでよいというような考えで、あちこちのクリニックで安全で簡単な方法として宣伝が行われ、多くの被害者が出ることになりました。問題は妊娠や授乳の際に感染が起きることが多く、バストから膿が出てくる、発熱、痛み、腫れ、赤みなどの問題が起き、さらに完全な除去が困難なことがほとんどで、多くの方が苦しんでおられます。また注入した物質が腹部に流れたり背中にまで拡散したような方もたくさんおられます。大きいしこりがある場合や液状にたまっているだけという場合は、かなりの量を除去できるわけですが、それでも一部は肋骨や肺のすぐそば、血液やリンパにも入って、肺や肝臓、腎臓にも拡散していることもあります。これらは回収が不可能です。
液状のものを注射で入れるような豊胸は過去にも多くの液状注入物が使用されていて、すべて悲惨な状態になっています。こういう手術をしてはいけません。液で入れたものは血管やリンパ内に入ると全身に回るわけです。現在のところ安全な豊胸手術は、インプラントによるもの、脂肪の注入によるもの、さらにインプラントと脂肪注入を併用する方法の3つだけです。またインプラントによる方法の場合、私のクリニックでは手術後は毎年、定期健診を受けてもらっています。また15年くらいでインプラントを新しいものと入れ替えることをお勧めしています。入れ替えはとても簡単な手術で日帰りで十分可能です。現在当院ではインプラントはモティバ社のものを使用しています。これが世界中でもっともやわらかく、プロテーゼそのものが中で流動性が高く自然なバストの感触に近いからです。バストの皮下脂肪が少ない方の場合は、採取できる脂肪があれば、これをバッグと併用して注入することで柔らかいい自然なバストに仕上げるようにしています。体に採取できる脂肪が多い方であれば、脂肪の注入による豊胸が適しています。ただ一度であまり多量の注入は血流の再開が起きないことがあり、必要なら3か月ほど待ってから2回目の注入を行うことで十分な大きさが得られることになります。