瘢痕というものの性質
形成外科の診療を長く行っていると、瘢痕というものの性質が手にとるようにわかってきます。やけどや手術によるキズ、あるいは植皮などの経験からすべてのキズは3か月ほど収縮するという性質があり、これに悩まされることになります。これを防止して手術直後のきれいな形を保つ努力がいる場合があるわけです。たとえば皮膚移植などを行う場合、体のどこかから皮膚を採取して、これを移植して皮膚をはりつけるわけですが、手術後1週間から2週間くらいで抜糸が終わることになります。もし、それ以後何もしないと移植した皮膚はかなり収縮して小さくなったり、引きつったり、凹凸ができたり、色調もそれにより汚いものになってしまいます。これを防ぐためには手術後3か月間のスポンジでの圧迫固定を行って皮膚が収縮するのを防ぐ必要があるわけです。毎日皮膚をきれいに洗うことは大切ですが、それ以外の時間はずっとスポンジでの圧迫固定を続ける必要があります。3か月以後はこの収縮は起きませんので、手術から3か月の管理はとても大切なものになります。あらゆる手術の皮下にはこの瘢痕ができることになり、これが収縮する可能性があるのかないのかという判断は美しい結果を得るために重要なものになります。
またキズの方向として運動の影響を受ける方向のキズはかなりこの固定が必要で、そうでない方向のキズについてはあまり頑張らなくてもきれいになります。このことはたとえば額や腹部に水平方向にできる手術のキズなどはとてもきれいになる傾向があり、もしこのキズが縦方向であれば、額なら眉の上げ下げで額の皮膚が縦方向に収縮伸展を繰り返すわけです。腹部でも同じで、体を曲げたり沿ったりして腹部を動かすことがあった場合、縦方向のキズは収縮伸展を繰り返します。もしこのキズが水平方向ならきのキズが収縮伸展を繰り返すことはほとんどありません。こういう理由で、額やおなかの縦方向のキズは収縮しやすく、ケロイド状に盛り上がりやすいわけです。水平方向のキズは特にテーピングなどをしなくてもケロイド体質など以外の場合はきれいに仕上がることが多いわけです。
このような圧迫固定の必要なキズは美容外科領域でもあるわけで、鼻の手術などで私が在宅時だけでもいいので、3か月はスポンジ固定を続けてくださいという方が多いのはこのような理由です。まれにフェイスリフトなどの手術でも手術後に一定期間だけ在宅時のみスポンジをはって包帯で圧迫固定をしてくださいという方があるのも皮下のキズの収縮を心配していることがあるためです。このように手術以外にもご本人に努力してもらうことが必要になる手術もわりに多いような気がします。もちろん私の手術の場合は、必要な方はちゃんと管理方法を指導しますので、心配はいりません。