国際美容外科学会、患者安全委員会
ISAPSと言うのですが国際美容外科学会の中に20くらいいろいろの委員会があります。この中にPatients’ Safety Committee、日本語で患者安全委員会と言われている委員会があります。私自身はISAPSの理事会はもう降りているのですが、今の会長のリナトリアナというコロンビアの女医さんからこの委員会に残ってISAPSでの活動を続けてほしいという連絡があり、長年親しく理事会でいっしょに仕事をしてきた方なので、引き受けてしまっています。
患者さんの安全のための活動をするという委員会ですが、委員は合計で約10人います。定期的にオンラインでの会議をしていて、重要な議題、意見、決議などは理事会に報告して世界の美容外科の活動を支えているわけです。アジアからは私一人がこの委員会に参加していますが、世界中ではいつもなんらかの問題が続いていたり、新しい問題が出てきたりしています。このオンラインの会議は一年に4回くらいあるのですが、二日前に今年になって2回目の会議が開催されました。日本時間ではいつも夜の11時から開始になって、大体いつも1時間半くらいで終了しています。今回の会議で問題になっていたことはいくつもありますが、重要なものとして、脂肪吸引における体重あたりの最大吸引量の目安を設定してはどうかというものがありました。世界の医師の中には脂肪吸引で同時にかなりの出血が起きるということをあまり気にしていない人もあるようで、実は脂肪の吸引量が多すぎたために出血多量が亡くなられている患者さんもあるわけです。本来美容外科では輸血が必要なほどの手術を行うべきではありません。必要なら3か月くらいあけて再度別の部位の脂肪吸引をすればいいわけです。患者さんのほうからは、なるべく一度の手術でここもあそこも、ついでにこの部分も、、というような要求はよくあるわけですが、これがとても危険であるわけです。他にはボトックスやヒアルロン酸の品質の問題が取り上げられていました。ボトックスはあくまでも血液製剤なので、この厳格なチェックが行われていないと血液を介したなんらかの感染症が起きる心配があります。またヒアルロン酸の品質も問題で、アレルギーが起こるようなものも世界には出回っているようなので、これはなんらかの規制がいると思います。各国が同じように動いてくれないとなかなかISAPSからの勧告だけでは難しい問題があります。
さらに一般の患者さんにどういう美容外科医が十分なトレーニングを受けた安全な医師かわかるような方法を確立するということがいつも問題になっています。ISAPSの正会員であるということが各国の形成外科学会と美容外科学会の両方の専門医資格があって、美容外科医としても充分な技量があるという証拠なのですが、このことが一般の方になかなか伝わっていないということが難しい問題です。英語圏ではISAPSのアナウンスが英語で一般の方に拡散していますので、ISAPSの名前は英語圏ではかなり有名で、この会員の医師であれば安心ということになっています。しかし、英語を話さない国々では、なかなか各国の言語で国際学会と同じ活動をするということが費用も膨大にかかる問題で、どういう方針をとるのがいいか、引き続き委員会でも討論中です。またこれ以外には、日本、アジアからの議題として糸によるリフトのトラブルが多いこと、成長因子を体内に入れることによるしこり、異常なふくらみなどのトラブルが多いということは報告しておきましたが、糸リフトは主にアジアで多い治療であること、さらに成長因子の問題は他の委員があまり聞いたことのない問題で、メーカーが許可していない治療をなぜ日本では行う医師があるのか?というような質問を他の委員から受けたりして、私も戸惑ってしまいました。他の委員の意見ではメーカーが国に働きかけるように指導すべきとか、日本の厚生労働省に日本の学会が情報を提供するべきなどの意見もあって、そのような方向で国内で私も動きたいと思っています。いろいろ次々に多くの問題が世界中で起きているわけですが、ISAPSの委員会はすべてボランティアの活動で、私も一切お金はもらっていませんし、皆さん世界の安全な美容外科のために熱心に頑張っているなあと思って、常々頭が下がる思いでいます。私も微力ながらこれからも頑張りたいと思います。