直美という問題について
最近直美というのだそうですが、大学を卒業してすぐに美容外科、特に大手の美容外科に就職して、そのまま美容外科医になろうとする医師が急増しているという話を聞きます。本来、医師として成長するためには、大学を卒業して国家試験を受けて、その後は研修期間があって、この間に外科や救急などの短期間の研修を受けて、その後は自分がなりたい医師、たとえば内科や整形外科などの研修医や医員としてどこかの病院などで指導医からあれこれ指導してもらいながら、成長していくことになります。これらの通常の成長を経験する医師たちはその間とても安い給与で働いておられるわけです。私も形成外科を15年間やっていましたので、その間大した給与はもらっていませんでした。ところが直美に走れば、一部の大手の美容外科などでは年収2千万円などとも言われていますが、こういう収入が大学を卒業してすぐに得られるというのが直美の問題の主な原因だと思います。
普通は美容外科医になろうとすると、まず形成外科でいろいろの再建手術を経験して、基本的な傷の経過や対応を学び、形成外科の経験が4-5年経ったところで日本形成外科学会の専門医資格を取るための試験を受けます。これに合格してはじめて形成外科専門医の資格が取れるわけです。日本美容外科学会(JSAPS)や国際美容外科学会(ISAPS)の会員になるためにはこの日本形成外科学会の専門医資格がないと会員にはなれません。ただ残念なことに日本にはJSAPSと同名の日本美容外科学会があり、こちらは区別するためにJSASと表記されています。こちらの学会は形成外科学会の専門医資格がなくてもすぐに学会の会員になることができます。ここで会員になった美容外科医は簡単にそちらの学会の資格である日本美容外科学会専門医という資格がもらえます。これってJSAPSと同じ名称なので一般の方には区別ができないので、ややこしいですよね。
形成外科の十分な経験がない医師は美容外科医になっても、万一合併症が起きた場合、この再建手術、つまり修正はできないことがほとんどだと思います。また二重まぶたを作る切開法とか、脂肪注入でいい結果を出すのはかなり難しいことなので、このような研修もないままになってしまいます。最近成長因子による合併症も多発していますが、これは脂肪注入でいい結果を出すことができない医師にとっては、単純に成長因子の注射で注射部位の脂肪が膨れてくれるので、とても簡単な治療になるわけです。これでかなりの収入を得ている医師もおられるようですが、成長因子の問題はしこりができたり、脂肪が膨れるのをコントロールできないことです。異常なふくらみやしこりができたり、凹凸ができたり、傷みやかゆみで苦しんでおられる方もとても多いわけです。直美に走った技術のない医師にとっては他にも非吸収性の物質の注入による豊胸手術や成長因子などの安易な治療に走ることも多いかと思います。これらを安全で簡単な方法などと広告をするような医師がいつまでたっても減らないということになりそうで頭の痛いことです。
今後さらに別の問題は、美容外科医が多くなりすぎて、現在の韓国のように新しいクリニックができる一方で、廃院になるクリニックも多くなったり、美容外科医が多すぎることで美容外科医として仕事がなく、中国に移住するような韓国の韓国美容外科医も多くなっているのですが、このような状況が日本でも将来起きてくるのではないかと、とても心配になっています。一方で日本の田舎では医師が不足していたり、将来日本はどうなるのでしょうねえ。