死体を使った手術の研修
日本では長い間大学の解剖学教室での死体解剖はほとんど学生の授業用のものでした。そもそも献体というものが日本では非常に少なく、医師になってからなんらかの研究、あるいは研修などで使用できる献体が日本にはほとんどありませんでした。私自身は、新しい手術方法を過去に3種類開発しているのですが、そういう新しい手術が実際にできるのかどうかという確認を死体を使用して行ったことがあります。この時京都大学の解剖学教室の当時の教授である星野教授に直接頼み込んで死体を使わせてもらったことがあります。この時も一人のご遺体を整形外科の医師と私と眼科の医師の3人が取り合いのようなことになっていて、整形外科の医師は常に研究中なので、絶対に死体の向きを変えてはいけないなど、とてもうるさいことを言われていました。これくらい研究用のご遺体が日本では不足していたわけです。これはおそらく今でもあまり変わらない状況なのだろうと思います。
私自身は大学を卒業してからは何回も死体を使った手術の練習、あるいは研究をすべてアメリカ国内のどこかの大学で経験しています。その後国際美容外科学会の手術を指導する教育委員会の委員やチェアを担当してからも常に死体をつかった手術の指導は外国で経験してきています。若い医師にとっては新しい手術手技を覚えるのに、死体で練習ができるというのは本当にありがたいことなのです。アメリカではジョンズホプキンス大学の形成外科の客員教授もしていますので、時々この大学で医学生や形成外科の若い医師に講義を行っています。ジョンズホプキンス大学でよく経験することは、午前中に私が講義をすると、ランチの時に何人か必ず質問に来る医師や学生がいて、かれらはすぐに午後か夕方に空いている時間があれば解剖教室に行って、講義をした手術を実際にやって教えてくれというようなことがあるわけです。これくらいアメリカでは自由に死体が使えるようになっていて、アメリカではとても献体数が多いという状況になっています。
先日日本形成外科学会と日本美容外科学会(JSAPS)からやっと日本の学会でも死体をつかった講義が始まるというアナウンスがありました。日本の3つくらいの大学の解剖学講座が協力してくれるようです。これは本当にありがたいことで、日本もやっとアメリカや国際美容外科学会などのように死体をつかった講習会などが始まるのだなあと思っています。若い医師にとっては死体で手術の練習ができるということは本当にありがたいことなのです。やりすぎるとこんなところに腸が出てくるとか、肺の損傷はこういう所までメスを入れるとありうるのだなあと実感できることはいい経験になり、合併症を防ぐということではこんな勉強になることはありません。また自分の知らない手術手技を覚えるのにもとてもいいトレーニングになるわけです。日本形成外科学会と日本美容外科学会(JSAPS)は本当に理事の方々や関連した委員会の方々がよく努力してもらったと思います。やっとアメリカやヨーロッパの先進国に遅れをとっていた分野がすこし前進を始めたとすこし安心しているところです。