フランスと美容外科
国際美容外科学会(ISAPS)のEducaton Council(学術委員会)やPatients Safety Committee(患者安全委員会)などの委員をしていますので、 時々オンラインでのミーティングや世界のどこかで直接集まって会議が行われています。そういう活動の中にいますので、世界の国々での美容外科で何が問題になっているか、それぞれの国がどういう法律を作ったり、対策としてどのような活動をしているかなどを知る機会が多いわけです。
いつも面白いのはフランスの政府が決める法律や細かい規則などです。最近この国の決めた法律で興味があったことが2つあります。一つは脂肪溶解注射の禁止、もう一つはフランス国内での美容外科診療において、患者さんの初診の日に手術を行うことを禁止するという法律です。
脂肪溶解注射については、おそらく皆さんもこの注射をすれば、脂肪が溶けて体外に安全に排出され、健康な脂肪だけが残っていると思われているのではないでしょうか?実はそうではなく、脂肪がこの注射で萎縮してさらに変質しているのです。この変質した脂肪がずっと体内に残ってしまうので、これが20年、30年たってガンにならないか、あるいはなんらかの有害物質に変化しないのかという疑問があり、これがまだはっきりしていないのです。たとえばかなり以前に水虫に放射線治療が劇的に効果があるという学会報告があり、そういう論文も多数出されたので、この放射線治療が人気になった時代があります。ところが、数十年してこの治療をした部位から皮膚ガンがたくさん出るようになったのです。今はこの治療はおこなわれていませんが、当初皮膚がんができるという予測はできなかったということです。
これと同じことで、脂肪溶解注射が将来なんらかの問題を起こすのではないかという疑問に対して、なんとなく大丈夫でしょう、、、という感じであり、学問的に安全という証明がないのです。そういう理由でフランス政府はこの治療が安全とわかるまで禁止ということにしたわけです。患者さんの安全を考えると、本当に正しい判断を素早くする国だなあと拍手です。
もう一つは日本でも問題になっている診療方針で、日本の一部のチェーン店のクリニックではとにかく安い費用での手術を広告で出して、実際に患者さんが来院されると、あれこれ高額の手術を強引に勧めて、とにかくその日のうちに急がせて契約を済ませて手術をしてしまうというクリニックがあります。一度帰宅されて、あれこれ情報を確認されたりすると、そのクリニックで勧めた手術を断念される可能性があるわけです。フランスでも同じような方針で運営されていたクリニックがいくつかあったようで、フランス政府はこの状況を止める目的で、初診当日にすぐに手術をするという診療を禁止にしたわけです。
日本でもこの問題は深刻で、被害にあった患者さんはとても多いと思います。日本もフランスに習って、こういう法律ができるといいのですが、、、。世界ではこういう安全性に欠ける治療や診療体制などに対して素早く対策をとっている国があるというのは、見習う点が多いように思います。私自身も国際美容外科学会のいくつかの委員会に所属していますので、こういう情報を世界に流すように頑張っています。なかなか情報を強力に出すためにはやはりそれなりの費用なども必要になり、こういうクリニックとの広告費とのある意味競争になっているようなことがあるのは残念なことです。もちろん世界中の国々の厚生労働省などの機関にはこのような情報を伝えているわけですが、日本など多くの国はこういう情報に対する反応がとても鈍く、大きな問題ではないと思われているのか、他に忙しいことが多すぎるのか、よくわかりませんが、世界の国々には、フランスはぜひ見習ってほしい国だと思っています。